Love nest~盲愛~
哲平さんが脱衣所から出て行くと、静けさにのまれそうになる。
ほんの1時間ほど前。
緊迫した空気の中、あの男の視線が突き刺さった残像が目に焼き付いて。
別に何かをされたわけじゃない。
キスさえされてないのだから、どうってことないはずなのに。
好きでもない人に襲われるという恐怖が、脳裏にこびりついてしまって、体が否応なしに震えてしまう。
力を入れようとしても、思うように立てなくて。
辛うじて胸元のボタンを外して、肩からワンピースをずり下ろそうとした、その時。
今まで体を震わせていた元凶に気付いてしまった。
あの男にブラジャーのホックを外されていたんだ。
恐怖のあまり体の感覚が無くなって、すっかり分からなくなっていた。
途端に全身が震え出し、涙が溢れて来る。
「うっ……っ……ッんっ……」
もう終わった事なのに。
何もなかったのだから。
被害らしい被害に遭わなかったというのに。
「うっ……てっ、……ぺっぃさんッ!」
1人では怖くて、自分の体の震えを止めることさえ出来そうにない。
ガチャッという音と共に現れた彼。
「どしたっ……」
涙を流しながら、胸元のボタンは外れ、片方の肩からワンピースの肩先がずり落ちている私を見据え、駆け寄って来た。
「ぶっ……らっ」
「ん?……ブラ?ブラを外して欲しいのか?」
彼の言葉にブンブンと顔を横に振る。
彼はわけが分からず、背中へと手を回した、次の瞬間。
「……外れてる」
「っ……っんッ……」
「外されたのか?……奴に」
嗚咽しながら小さく頷く。
すると、長い腕がぎゅっと奮える体を抱き締めた。