Love nest~盲愛~

あくる日。

澄み渡った青空で、私と哲平さんの門出に相応しい清々しい朝を迎えた。

10時過ぎに顧問弁護士が書類一式を手にしてやって来た。

長年の憂いが、これで漸くかたがついたと。

昨日、緊急で開かれた株主総会で、彼の父親の会社の代表の座も正式に、代表取締役 社長に彼が就任したらしい。

明日正式に就任式となる会議とお披露目会的な集まりがあるらしく、それに伴い、妻として私も同伴することとなった。



「えな」

「はい」

「やること、いっぱいあるぞ」

「楽しみですね」

「そうなのか?」

「はいっ!」

「俺は憂鬱だ」

「どうしてです?」

「官公庁って、待ち時間長いだろ」

「あ、……そうですね」


区役所で婚姻届けを出しに行くついでに、その足で免許の書き換えをすることに。

とはいえ、区役所で手続きするのは婚姻届けだけじゃない。

他にも実印登録だとか色々あって、私より彼は大変そうだ。

会社に関わる変更手続きは顧問弁護士がしてくれるそうだが、今日一日で個人的なことを済ませる予定だという。



区役所の窓口に行き、整理番号の札を貰って、彼とソファーに腰掛け順番を待つ。

私にとっては、この時間すら幸せに感じるほどだ。

隣にはスマホで株価を見ている彼がいる。

男性には贅沢すぎるほどの長い睫毛に、スッと通った鼻梁、形のいい唇が目と鼻の先に。


「そんなにじっと見てると、キスするぞ」

「ッ?!……こ、ここ、区役所です」

「だから?」

「っ……」


私の視線に気付いていたようで、スマホに視線を落としたまま、彼が恐ろしい事を口にした。

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