Love nest~盲愛~
「申し訳ない。悪いが、私には彼女が必要なんだ。今回の話は無かった事に」
「………」
事前に用意されていたとは思えぬほどの流暢な口ぶりに、目の前に座る彼女はすっかり流されて。
唖然とした表情のまま、コクコクと何度も頷いた。
それを横目に私は踵を返して、ツンとした表情のまま歩き出す。
そんな私を追いかけるように、テーブルの上に1万円札をサッと置いて、私の後を必死に追いかける彼。
コツコツとヒール音を響かせて足早にエントランスへと向かう。
ドアマンが会釈する横を颯爽と通り過ぎて……。
エントランスまで来た私の肩にそっと手を乗せた彼。
演技終了の合図。
私はゆっくりと振り返ると。
エントランスのガラスに映る彼は、満足そうな笑みを浮かべていた。
その表情を確認し、肩に乗せられた重みを感じて。
突如現れ出す、脚の震え。
そして、彼の頬が薄らと赤く染まっている事が何よりの証。
生まれて初めて人に手を上げてしまった。
等価交換とは言え、思わぬ代償。
手のひらがジンジンと痛む事以上に、胸の奥が重く痛んだ。
私は一体何をしているの?
これが倖せへの近道なわけ?
大金を貰うだけでなく、彼を傷つけてしまったのに……。
これでも等価交換と言えるのかしら?
モヤモヤとした気持ちのまま、いつの間にか迎えに来た白川さんの車へと乗り込んだ。