Love nest~盲愛~
私達を乗せた高級車は、静かに走り出した。
どこへ向かっているのかさえ分らない私に出来る事と言えば……。
「あのっ、大丈夫ですかっ?!」
自分で平手打ちしておきながら心配するってかなり変だけど、でも、気にならない筈は無い。
生まれて初めて人に手を上げてしまったし、何より自分の手のひらが、あれからずーっとジンジンしている。
熱を帯びていない方の手を彼の頬へと伸ばすと、私の手を振り払うように体が左側へと。
そして、視線も合わせず、胸ポケットから取り出した封筒を私の膝元に投げて寄こした。
「約束の報酬だ」
「………」
「一発だったから、100万だぞ」
「………」
私は報酬が欲しくて手を伸ばしたんじゃない。
叩いておきながら心配するのはお門違いかもしれないけど、それでも彼が心配だった。
けれど、彼との関係は『等価交換の取引相手』、ただそれだけ。
家族でも恋人でも友達でも無い。
お互いに納得した上での契約をしてる間柄。
私は奥歯をギュッと噛みしめ、投げ寄こされた封筒を握りしめた。
「有難うございます。遠慮なく頂きます」
「フッ……」
一発100万円、彼が直前に提案した額。
彼に平手打ちした対価が100万円。
心が痛んだけど、その代償が100万円だと思えば、物凄く高価だし、破格の値段だ。
貧乏生活から抜け出す為の最終手段。
悪魔と契約したかのように、心の奥が酷く軋んだ。