Love nest~盲愛~
「もういいのか?」
「えっ?」
困惑する私のもとに彼はゆっくりと近づいて来た。
そして、腕時計を見て一言。
「約1時間」
私が彼に気付かなかった時間?
そういう事………なのよね?
ほんの少し口角を上げて、一歩、また一歩と近づく彼。
その威圧感に圧倒され、私は無意識に後退りしようと。
「あっ……」
窓際のソファに座っていた訳だから、当然逃げ場なんて無いのに。
行き場を無くした私の身体は、先程まで寛いでいたソファに沈み込んだ。
そして、そんな私の目の前まで来た彼は、私を無言で見下ろした。
1時間も待たされたというのに、怒っている様子は見受けられない。
というよりも、怒りを通り越して、罰を与えよう……そんな眼をしている。
嘲笑うような、どこか愉しんでいるような表情を浮かべる彼。
無言なのが、返って恐怖心を煽る。
胸元に詩集をギュッと抱きしめ、小刻みに震え出すと。
絶体絶命と言わんばかりに大きな影が降って来て、骨ばった長い指先が私の顎を捕らえた。
そして、クイッと顔を持ち上げられ、黒曜石のような漆黒の瞳と視線が絡まった。
「おい、ご主人様が帰宅したのに、挨拶も無いのか?」
「ッ!!」
片眉がピクリと動き、更に口角が持ち上がる。
責められているのにもかかわらず、久しぶりに間近で聴く彼の声音に左胸がトクンと反応した。
甘美なバリトンボイスと共に煙草の香りが降り注ぐ。
「おっ、お帰りなさいっ」