Love nest~盲愛~


「えな様、そちらの書物はそのままお持ち頂いて……との事です」

「え?」

「読みかけの書物はお持ちするようにと、仰せつかっております」

「…………そうですか」


私は再び詩集を手にして、今井さんに気付かれないように小さな溜息を零す。

そして、背筋を伸ばして気持ちを入れ替えた。


今から私は女優になるのよ!

彼の求める女性になりきって、彼の機嫌を損ねないようにしないと。


自分自身に言い聞かせるように深呼吸した。


「宜しいですか?」

「はい。お願いします」


私は彼女の後を追う形で書庫を後にした。



彼の書斎は書庫の3部屋隣りに位置していて、私達の到着と同時に若い使用人の女性がティーセットを持って現れた。

今井さんはドアを3回ノックし、静かに扉を開けた。


「失礼致します。えな様をお連れ致しました」

「ん」


彼は顔を上げる事無く、手元の書類に視線を向けている。

今井さんの誘導に従い、私は静かに入室して、ソファに腰を下ろした。

そして、私と彼を2人っきりにするかのように、若い使用人さんも無言のままティーセットをテーブルに置き、深々お辞儀をして今井さんと共に席を後にした。


シーンと静まり返る室内。

時折、彼の指先が捲る紙の音がするだけで。

私は空気を吸う事さえ躊躇うほどに……。

すると、


「えな、お茶を淹れてくれ」

「ッ!……はい、只今っ」


私は慌ててティーポットに手を伸ばした。


「あっ……」


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