Love nest~盲愛~
自分が悪いのだから、決して泣くまいと思えば思うほど、涙が溢れて来た。
頬を伝う無数の雫。
月明かりだけの薄暗い部屋という事が、不幸中の幸い。
彼に泣き顔を見られないで済む。
私は咄嗟に俯いて、必死に声を押し殺した。
すると、
「泣かせたい訳じゃない。…………悪かったな」
俯いた私の頭に手を置き、ワシャワシャっと撫でた。
少し乱暴にも思えるけど、不器用な彼の優しさなのかもしれない。
歪む視界の中に彼の足先を捉え、すぐ傍にいるのだと実感した。
本当に愛想を尽かしたのであれば、すぐさま部屋を出て行ってもおかしくないのに……。
彼は泣き崩れる私の傍を離れようとはしなかった。
「っ………ごめんっ………なさいっ……」
涙を拭いながら、彼に必死に謝罪すると。
「もう泣くな。…………泣いたら、報酬はやらないぞ?」
「っ……?!」
彼はスラックスのポケットから封筒を取り出し、無造作に私の膝元に放り投げた。
「今日はもう休め。…………明日も同じ時間に部屋に来い。…………いいな?」
「……………はい」
彼は私の返事を聞くと、ゆっくりとした足取りで部屋を後にした。
彼がいなくなった室内。
微かに香る煙草とアルコールの香り。
そして、ガウンから香るムスクの移り香。
彼と過ごしたという事を物語っていた。
暫し呆然としていたが、膝元にある封筒をそっと手にしてみると、かなりの厚みがある。
封を開けなくても分るほどの額。
何もしていないのに手にした………対価だった。