Love nest~盲愛~
背中の傷痕
西賀家に住み始め、1カ月が過ぎようとした、ある朝。
カーテンの隙間からの木漏れ日で目覚めた私は、滑らかな肌触りの布団を手繰り寄せ、埋もれるように身を委ねていると、薄らと開けた瞼の隙間にそこにはいないはずの人物を捉えた。
「ッ?!……おっ……はよう、ございます」
「ゆっくり、休めたか?」
「………はい」
驚いたことに、彼がベッドに腰掛けていた。
来たなら来たで、起こしてくれればいいのに。
何故、黙ってたのだろう?
毎夜、21時過ぎに彼の寝室に通うようになって、2週間が過ぎようとしていた。
毎日のように寝室を訪れているのに、未だに彼とは関係を持ってない。
ただじっと見つめてるだけの日もあれば、本を読まされる日もある。
1階にあるピアノを弾かされる事もあれば、彼が飲むお酒を作る事もある。
毎夜2時間ほど、彼の指示に従って過ごすだけ。
しかも、その報酬として、100万円が現金で手渡される。
時給50万円の仕事には見合わない。
それだけに、それ以外の時間に何かをしなくてはと焦る日々。
大金を貰うばかりで、私は何もしてないのに。
彼は一体、何がしたいのだろう?
そんなことを毎日考えていた。
そして、今。
初めて、朝に、彼が私の部屋にいる。
布団から足先が出ていたようで、その部分にあるモノを指先でなぞりながら、私の目をじっと見つめたまま。
それは、私と彼とを繋ぐ『契約の証』
決して外すことは許されない楔。
「えな」
「……はい」
「朝食を済ませたら、連れて行きたい所がある」