Love nest~盲愛~
朝食を食べ終えた私は、出掛ける準備をする。
今井さんから『黒いワンピースで』と言われ、シックな装いに仕上げた。
持ち物は無い。
ここに来てからというもの、使う事が無くなった携帯電話。
誰からも連絡がないから、持ち歩く必要性を見出せない。
お財布?彼と一緒ならそれも必要ないはず。
強いていうなら、ハンカチとメイク道具だろうが。
彼はあまりメイクを好まない。
バッチリ化粧したつもりの日に限って、私を一瞥して機嫌が悪くなる。
たぶん、私のメイク術が下手過ぎるのかもしれないけれど。
だから、簡単なナチュラルメイクで十分らしく、メイク直しする必要性もない。
ドアがノックされ、今井さんが迎えに来た。
彼女のあとを追い、エントランスに行くと、そこには高級なスポーツカーが停まっていて、彼が既に運転席にいる。
「えな様?」
「あ、はいっ」
「お乗り下さい」
「……はい」
右側のドアが開かれ、助手席に座る。
見慣れない視界がそこに広がり、緊張していると。
横から煙草の香りがふわっと鼻腔を掠めたかと思えば、彼の美顔が目の前に現れた。
「じっとしてろ」
「ッ……はい」
彼の長い腕が私を横切り、右肩の上にあるシートベルトを捉え、それを手繰り寄せた。
「車は酔う方か?」
「……いえ、大丈夫です」
小さく頷いた彼は、シフトレバーを切り替え、軽やかに車を発進させた。
サイドミラーに深々とお辞儀をする今井さんの姿を捉えながら……。
一体、どこに連れて行かれるのだろう?