Love nest~盲愛~
「わぁ~海~っ」
「海が好きなのか?」
「泳げないですけど、海の近くに別荘があったので、幼い頃によく浜辺を散歩した記憶があります」
車窓から見える景色は、太陽に照らされた青い海。
キラキラと輝いて、白波が『おいで』と呼んでいるように見えた。
何年も海なんて見てなかった。
見る余裕がなかったというのが正しいけれど、父との想い出が蘇りそうで無意識に避けていたのかもしれない。
程なくして車が停車した。
海から近い丘陵地にある聖苑のようだ。
平日の昼間ということもあって、人気もなくとても静か。
「これを持ってろ」
「……はい」
後部座席から取り出し、手渡されたのは白いカラーの花束。
それが何を意味しているのか、安易に想像がつく。
誰だか分からないけれど、彼にとって大事な方が眠っているのだということを。
大きなストライドで歩く彼に小走り気味について行く。
彼が足を止めた先にあったのは、幻想的な洋型の墓石。
惑星を思わせるような形を模していて、周りの墓石との雰囲気が全く違う。
「それを寄こせ」
彼の手にカラーの花束を手渡すと、彼はそれを墓石に供えた。
そして、膝を折り、静かに手を合わせた。
そんな彼を静かに見守る。
球体の墓石には何も書かれていない。
誰のお墓なのか、それすら分からず。
一体、誰のお墓なのだろうか?
そんな事が気になりつつも、私も故人に手を合わせた。
『天国で彼を見守ってて下さい』と。
「んッ?!!」
ゆっくり目を開けると、彼が目の前に立っていた。