Love nest~盲愛~
「随分真剣に手を合わせてるが、知り合いか?」
「……いえ」
「では、俺の歓心を買うつもりか?」
「そんなつもりは無いのですが、結果的にそう思えたのでしたら、お詫びします」
視線のやり場に困り、足下に落とした次の瞬間。
「帰るぞ」
彼は颯爽と歩き出し、来た道を戻ってゆく。
機嫌を損ねたかもしれない。
そう思い、小走りにあとを追った。
車に乗り込んだ2人。
何とも言えない緊迫した空気が漂う。
「母親だ」
「え?」
「さっきの墓」
「お母様」
彼はエンジンをかけ、車を発進させた。
ん?お母様??
今井さんの話では、ご両親は別の家に住んでいると話してたよね?
では、あのお墓のお母様というのは、本当のお母様ってこと?
「今日は命日か何かですか?」
「ん」
「そうだったんですね」
尋ねたいことは山ほどある。
今のご両親との関係。
本当のお母様はいつお亡くなりになられたのか?
命日ならば、他に一緒にご供養して下さる人はいないのか?
何故、私をあの場に連れて行ったのか?
聞きたいことは沢山あるけれど、込み入った話をする間柄ではない。
所詮、私は彼のお飾り。
気が向いた時に構って貰う程度でしか、彼と会話する事も会う事もない。
それ以上かける言葉が見つからず、流れる景色を眺めていたら、来た道ではない脇道へと車が向かう。
どこへ向かっているのだろうと思った、その時。
視界に広がったのは、来る時に見たあの青い海だった。