Love nest~盲愛~

「随分真剣に手を合わせてるが、知り合いか?」

「……いえ」

「では、俺の歓心を買うつもりか?」

「そんなつもりは無いのですが、結果的にそう思えたのでしたら、お詫びします」


視線のやり場に困り、足下に落とした次の瞬間。


「帰るぞ」


彼は颯爽と歩き出し、来た道を戻ってゆく。

機嫌を損ねたかもしれない。

そう思い、小走りにあとを追った。


車に乗り込んだ2人。

何とも言えない緊迫した空気が漂う。


「母親だ」

「え?」

「さっきの墓」

「お母様」


彼はエンジンをかけ、車を発進させた。

ん?お母様??

今井さんの話では、ご両親は別の家に住んでいると話してたよね?

では、あのお墓のお母様というのは、本当のお母様ってこと?


「今日は命日か何かですか?」

「ん」

「そうだったんですね」


尋ねたいことは山ほどある。

今のご両親との関係。

本当のお母様はいつお亡くなりになられたのか?

命日ならば、他に一緒にご供養して下さる人はいないのか?

何故、私をあの場に連れて行ったのか?

聞きたいことは沢山あるけれど、込み入った話をする間柄ではない。

所詮、私は彼のお飾り。

気が向いた時に構って貰う程度でしか、彼と会話する事も会う事もない。


それ以上かける言葉が見つからず、流れる景色を眺めていたら、来た道ではない脇道へと車が向かう。

どこへ向かっているのだろうと思った、その時。

視界に広がったのは、来る時に見たあの青い海だった。

< 80 / 222 >

この作品をシェア

pagetop