Love nest~盲愛~
右足の小指部分が少し切れて、血が滲んでいる。
砂浜に埋もれていた、何か尖ったもので切れたようだ。
彼は無言で手当てをしてくれた。
それも、心配そうな表情をして。
「ご迷惑お掛けして申し訳ありません。有難うございました」
「痛みは?」
「大丈夫です」
「熱が出るようなら病院に連れて行くから」
「……はい」
破傷風を心配してくれたようだ。
ほんの少し切れただけなのに。
煙草の煙といい、傷の手当といい、彼は不愛想だけれど本当は優しい人なのかもしれない。
これまでも同じようなことが何回かあった。
態度は素っ気ないけれど、気遣ってくれたことが。
彼の気まぐれ玩具のはずなのに。
こんな風に優しくされたら、勘違いしてしまいそう。
人形みたいに綺麗に着飾って、極上な生活をあてがって。
彼が求めるものが何なのか、未だに分からないけれど。
傷一つ付けることも許されないのかもしれない。
全てにおいて、彼の望むような完璧なドールである為に。
**
運転席に座った彼の視線が突き刺さる。
無言のまま上から下までチェックし始めた。
何かおかしな所があるのかと心配になって、ぎゅっと目を瞑ると。
煙草の香りが僅かに鼻先を掠め、V字に開いている胸元部分に彼の髪が当たるのを感じた。
そして、微かな痛みが肌に刺さる。
彼から与えられる『契約の証』を。
「えな」
「……はい」
「俺を見ろ」
後ろ首を掴まれ、甘く痺れるバリトンボイスが耳元に届く。
瞑っていた瞼をゆっくり押し上げ、横にいる彼を見据えると。
スッと伸びた鼻梁、薄く形のいい唇が近づいて来て……。