Love nest~盲愛~
彼が8日ぶりに帰宅したとあって、今日の夕食は彼の好物らしい。
魚介類がふんだんに使われたお料理が多く、味付けは意外にも薄味が好みらしい。
舌平目のポアレがメインになっていて、ソースはブール・ルージュ(バターに赤ワインとエシャロットが加わったもの)が上品に掛けられている。
デザートを口にしていた、その時、彼の視線に気づいた。
「えな、1曲頼む」
「……はい」
少し前から彼の依頼によって弾いているピアノ。
しかも、この西賀家にあるピアノは、私が幼い頃から愛用していたのと同じメーカーのグランドピアノだ。
豊かな響きも計算されて設計されているのか、ダイニングとリビングの間にあるこのピアノを弾くと、1階全体がコンサートホールで弾いているような錯覚に陥る。
伸びやかな音色に心地よさを感じながら、好きな曲を弾いて……。
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「はい、坊ちゃま」
食事の時間は終わりを告げ、彼は自室へ戻ろうと席を立ったタイミングで合図すると、今井さんが彼の元に駆け寄る。
「風呂に入るから、支度を持たせて来させろ」
「承知しました」
今、風呂に入ると言わなかった?
しかも、支度を持たせろとは、どういう事かしら?
彼の着替えの手伝いをすればいいの?
でもそれなら、支度を持って行かなくても私だけが行けば済むこと。
濡れるから着替えが必要だという事かしら?
初めての事で、一気に緊張が走る。
長いストライドで歩き出した彼を追うように小走り気味にダイニングを後にすると、その後ろを追うように今井さんの姿も。