Love nest~盲愛~
部屋のドアの前まで来た所で彼は足を止め、ほんの少しだけ振り返りながら口を開く。
「軽くシャワーを浴びてから来い」
「……はい」
彼は伝え終わるとそのままドアの奥へと姿を消した。
軽くシャワーを浴びてから……という事は、一緒にお風呂に入るのでは無さそうだ。
彼の入浴の世話をするってことみたい。
それならそれで、はっきりと言えばいいのに。
いつもながらに言葉のチョイスがどうも庶民とは違うらしく、戸惑いを引き連れた言い方をする。
少しずつではあるけれど、この感覚も慣れて来たみたい。
以前は発狂しそうなほど驚いていたけれど、今はそれほど驚かなくなった。
常軌を逸してる彼の性格に適応する為に備わったスキルかもしれないけれど。
心が壊れたのか、感情が凍ってしまったのか。
彼の言動に動揺することなく合わせれる自分がいる。
「えな様?」
「あ、ごめんなさい」
廊下に呆然と立ち尽くしている私は、小さく頷いて自室へと戻った。
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彼を待たせてはいけないと思い、急いでシャワーを浴びた。
この後に再び浴室へ行くならば、髪を完全に乾かしてなくても大丈夫かな?と思い、髪はタオルドライだけして…。
スキンケアのみ施し、長い髪は緩く纏め上げた。
今井さんがバスローブを用意してくれたけれど、さすがに素肌にそれだけでは心許ない。
下着を着けた上に刺繍が施された上品なベビードールを身に着けて、その上に肌触りのいい上質な高級綿で作られたバスローブに袖を通して……。
浴室のドアを開けると、着替え一式を手にした今井さんが待機していた。
予備の服かしら?と思いながら、彼女と隣の部屋へと向かい、ドアをノックする。
「入れ」
今井さんがドアを開けてくれて、中に入ると、彼はまだ仕事着のままだった。