Love nest~盲愛~

「何故、唇にはキスをしないのですか?」

「して欲しいのか?」

「………」


彼の言葉に答えるとするならば、答えはNO。

だからこそ、返す言葉が見つからない。

無言のままじっと彼を見上げていると、私の体を抱える腕が引き寄せられ、更に彼との距離が詰まった。

そして、もう片方の手が頬に添えられ、先ほどと同じように親指が唇を優しくなぞる。


「ここは……、好きでもない男からされるのは嫌だろう?」

「えっ………?」


心の奥を見抜いた上で投げかけられた言葉。

好きでもない男から……。

確かに当然と言うべきというか、普通ならそれが当たり前なのだけれど。

大金で買われた身でも、同じでいいのかしら?

常軌を逸した言動が目立つのに、時に扱いが怖いくらい優しいことがある。

今がまさにそれで、私を大事に想ってくれているのかと勘違いしてしまいそう。


あ、もしかして……。

だから、抱こうともしないのかしら?

私はてっきり、完全に娼婦のように買われた身だと思ってたのに。

おとぎ話に出て来そうな素敵な家と毎日贅沢すぎる食事と。

いつも優しく気遣ってくれる人々と……。

それらだけでもありえないほどに恵まれている環境だから、それと等価交換したはずなのに。

なのに、家から出れないとか多少の不自由さはあるにせよ、他の事を考えたら十分お釣りが出るほどの条件だ。

だから、キスすることも体を重ねることも覚悟の上でこの生活を受け入れたのに……。

これでは、私にとってデメリットが一つも無いように思えた。


「それでは、……この体も?」

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