あたしはそっと月になる
「ちょっと待てよっ!傘、傘持ってけって。さして行けって言ってんじゃんっ」



大粒の雨が降りそそぐ中、



強くアスファルトの路面に叩き付ける雨音。



「待てって!!大塚!!」



その雨音に負けないくらいの大きな声で矢口潤が叫ぶ。



そして、駆け足で走り出したあたしに向かって走ってくる。



どうしてよ。



なんで……追いかけてくるの?



あたしなんか、あたしなんか……。



ずぶ濡れになりながら、その声に振り向くと、



息を切らせながら走って来た矢口潤があたしに追いついた。



「大塚にやるって。風邪ひいたらどうすんだよ。使えよ……なっ?はい、これ」



矢口潤の手にはさっきの傘。



ずぶ濡れになりながら、そっとさし出してくれた傘。



それを見て思う。



苦しいの。



切ないの。



だから、優しくしないで。



そんな風にあたしを見ないで。



あたしの想い、



今、この瞬間にも口にしてしまいそうだから。



大好きだからこそ、どうすればいいか分からない。



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