あたしはそっと月になる
「寒いなっ……」



あたしの手を握りながら歩く矢口潤がつぶやく。



吐く息は白く、繋いだ手は温かい。



一緒に観た映画の帰り道。



「この映画は樹里と観たかったんだよ」



そう言えば実夕の誘いを断ってたよね。



すっかり暗くなった空の下、



ゆっくりとした足取りで二人で歩く。



あたしの家が近づくと、



寂しそな目をした矢口潤が言う。



「やべっ……帰したくねぇ……」



繋いだ手をあたしも強く握る。



「……帰るよ。また明日ね」



気持ちは同じ。



あたしだって同じ……一緒なんだ。



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