[短編]初恋を終わらせる日。
……優也くん、探してるかな。
廊下を通った時に見つからないように、本棚の陰に屈んで身をひそめる。
お姉ちゃんに口止めしておいた方が良いよね。
でも、話しかけにくい。
ほんと、形だけの姉妹。
血が繋がって、同じ家に住んでるのに、それだけ。
「……ここから、美術室見えるんだ」
憂鬱さを隠せず窓の外に目を向けた時、ふとそんなことを思ったのは、天谷が美術部だから。
運動神経抜群で体育祭では常にヒーローなのに、彼は中学の頃からそうだった。
バカで能天気な普段からは想像も出来ないほど、繊細で綺麗な絵を描く。
素人の私でもその才能は、しっかり理解出来た。
ーー " 天谷の絵、好き。"
私がそういった時の照れた笑顔がとても印象的で、忘れられない。
多分それは、あんなに嬉しそうに笑った彼を見たのは初めてで、きっとあれを超える笑顔を見たことがないからだと思う。