君と想い出をもう一度
石の近くに行くと──────《願いを述べよ》


無声音だが妙に響く声が洞窟中に跳ね返った。


怖いのか、ミュウがぎゅっとラルムの手を握る。 


《女、述べよ》


びくりと肩がすくむのが嫌でも分かった。

怖い。

怖いよ…やだ…

ただの石のはずなのに、背筋が凍ってるみたい。


悪いことは起きない、悪いことは起きない───────ラルムが、守ってくれる。


「わ…私の願いは、ずっとラルムと幸せに暮らすこと…です」


言ったとたんフワリと石から金の光が現れ、ミュウとラルムの体をベールのように覆った。


 《男、述べよ》

ミュウの手を握ったまま、ラルムが息を深く吸った。

何も思い浮かばない…ミュウと同じことを言おうとしてたんだな。

ある意味良いのか?


難しい顔で考えこんでいると、ふと良い考えが思いついた。


「ミュウと俺の絆の証になるような、ただ一つの…美しい石が欲しい」



俺たちだけの石。


婚礼の日に…ミュウに着けさせよう。

石が瞬きをしたかのように光がパチリと踊った。


《一番大切な物を失ってもか?》


一番大切な、物?


ラルムは首を傾げ、城の自室に思いを巡らせた。


俺に大切な【物】なんかない。

長年使っている万年筆も、特に大事にしている訳ではなかった。

サファイアの指輪もラルムにとっては何ら価値のない物だった。




「…ああ」


そして、石に告げた。
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