あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
「―――おい、加納!」



いきなり大声で名前を呼ばれて、あたしは顔をしかめてゆっくりと視線を前に向けた。

教壇の上から険しい目付きであたしを睨んでいるヤマダと目が合う。



「お前、話を聞いてるのか!?」


「………いちおう、聞いてます」


「一応だと!? ちゃんと気を入れて聞かんか!

おい、板書は写してるんだろうな!?」



威圧的で怒鳴るような口調。

教師って、どうしてこんなに偉そうなんだろう。

そんなたいした人間なんだろうか?


「写してません」


嘘をついたって仕方ないし、そもそも取り繕う必要もないと思ったので、あたしは正直にそう答えた。

その瞬間、ヤマダの顔が茹でダコみたいに真っ赤に染まる。



「ふざけるな!

お前、先生を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」


「………」



べつに、馬鹿にしてるつもりはないんだけど。

訂正するのも面倒なので、あたしは黙ってヤマダを見つめ返した。



「………ふん、まあいい。120ページの4行目から読め」



あたしはため息をついて引出しの中から教科書を取りだし、ゆっくりと立ち上がった。


クラスメイトたちが、ちらちらとこっちを見てくる。

ヤマダの額には青筋が浮いている。


あたしはもう一度ため息を吐き出して、指示された場所を読み始めた。



「………そこで日本は、不利な戦況を打開するために、特攻作戦を決行………」


「声が小さい!」



怒鳴り声に遮られて、あたしの苛立ちは最高潮に達した。




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