あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
古びたアパートの前で、あたしは足を止める。

錆びだらけの階段の脇をすり抜けて、一階の一番奥の薄暗い玄関の前に立つ。


ここがあたしの家。

物心ついた頃からずっと、ここに母親と二人で住んでいる。


父親が誰なのかは知らない。

母親は22歳であたしを生んで、そのときからずっとシングルマザーらしい。


そんな家庭環境もあって、あたしは周囲からいつも色眼鏡で見られている気がする。

可哀想な子として同情されるか、腫れ物に触るように様子を窺われるか、片親だからひねくれた子に育ったんだと陰口を叩かれるか。

蝉がうるさい。
イライラする。

あたしは鞄から鍵を出して、静まり返った部屋の中に入った。



部屋には熱気がこもっていて、息苦しいほど暑い。

あたしはリビングの窓をあけて、扇風機のスイッチをいれた。


テレビの電源を入れると、夕方のニュース番組が流れ始める。


ただ沈黙が嫌だっただけで、別にテレビが見たかったわけではないから、興味もないニュースを垂れ流しにしたままであたしは床にごろりと寝転がった。




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