あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
あたしはツルさんの大事な銘仙の着物を風呂敷に包み、ぎゅっと胸に抱えた。





「百合ちゃん、おつかい?」





隊員さんの数人が、店の外に出ようとするあたしに気づいて声をかけてくれた。





「気をつけて行っておいでよ」




「うん、行ってきます」





あたしは彼らに手を振り、ツルさんが渡してくれた地図を頼りに歩き出した。




少し歩くとすぐに汗が噴き出してくるほど、暑い日だった。




手拭いで汗を拭き拭き歩く。




今日がお風呂に入れる日でよかった……なんて思いながら。





町の人たちは、以前に比べてどこか暗い表情を浮かべている気がした。




沖縄が占領されて、本土空襲が始まり、誰もが心の奥底に不安を抱えている。




もしかして日本は敗けるんじゃないか。




そんな思いがじわじわと波のように押し寄せて、町じゅうを覆っているようだ。




きっとそれは、今、日本のどこでも同じなんだろう。






< 88 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop