上司に秘密を握られちゃいました。
木陰のベンチでコートを脱ぎ、バッグの中から帽子とスマホを取りだす。

日なたに出て、東郷百貨店のビルがうまく入る場所に立つと、手を伸ばしてスマホのシャッターを数回押した。
残念ながら自撮り棒を持っておらず、なかなかうまくはいかない。


「撮りましょうか」

「えっ……はい。ありがとうございます」


そうこうしていると声をかけられ、そちらに顔を向けると……。


「あっ!」


一瞬、息が止まった。
その人が真山さんだったからだ。


「スマホ、貸してください」

「はっ、はい」


真山さんは幸い私に気がついていない。


「ここ、丁度東郷が入りますね」

「えぇ……」


冷や汗が出てきた。
バレないうちに立ち去りたい。


「はい、笑って。いきますよー」


それでも笑顔を作っている自分が怖い。
< 21 / 439 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop