上司に秘密を握られちゃいました。

『やり直したい』という言葉に、ビクッと反応してしまう。
だけど、真山さんは振り返ることすらなく、私を連れてその場を去った。


「真山さん?」


強く握られた手首が痛い。


「ごめん」


乗るはずの電車の改札は、通り過ぎてしまった。
別の出口に近づいたとき声をかけると、我に返った様子の彼は、やっと私の手を離した。


「藍華、ごめん」


眉をひそめる彼は、いつもの余裕が見られない。


「いえ……」


なんと言ったらいいのだろう。
本当は佳乃さんの登場がすごくショックで……頭の中が真っ白だった。

無論、真山さんの態度を見て、彼の方に彼女に未練がないことはわかった。
そして、過去に彼女がいたことを責めるつもりもない。

でも……。

佳乃さんの言葉が胸に刺さって抜けない。
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