上司に秘密を握られちゃいました。
「ありがとうございます。失礼、します」
真山さんからスマホを返してもらうと、慌てて駅の方に足を向けた。
でも……。
「あのコート、違います?」
「あっ、そうです!」
慌てすぎだ。
こんな姿では電車に乗れない。
「待ってください。僕も東郷の社員なんです。受付の方ですよね」
彼は私に近づいてきて、爽やかな笑顔を見せる。
「……はい」
受付の制服を着ているのに、違うとは言えない。
「お会いしたことがあるような……」
「いえ、初めてです」
お願い、思い出さないで!
「すみません。僕もまだ全社員わからなくて」
首を傾げ、記憶をたどりだした彼の前から、いち早く逃げ去りたい。
「し、失礼します」
真山さんから離れると、コートを羽織りながら駅にダッシュした。