上司に秘密を握られちゃいました。

「んー、杏林のチェックは特注だから、多分どこを探してもないと思うよ。似たのだと、この辺りかなぁ」


出してくれた生地は、たしかに杏林女子のものとは違う。
だけど遠目に見ればごまかせるかもしれない。


「おじさん、これいくら?」

「メートル二千円。このウールも、なかなかいいものだからね」


スカートは二メートルあれば作れると思うけど……。
それでも四千円。


「あとは金ボタンだね……」


次に出してくれた金ボタンは、何種類もあった。
しかも、ひとつ二百円もするという。

どんどん値段が上がっていく。
だけど、問屋だからその値段で済むのだ。


「はぁ……」


お財布の中を考えて溜息をつく。

これでは、バイトでやっと貯めたお金がすっからかんになってしまう。
先月は、大好きなドーナツも、欲しかった洋服も我慢したのに。
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