上司に秘密を握られちゃいました。
「西里さん、ちょっとこっち確認して」
「はい」
本部は朝から慌ただしい。
こういう企画当日は、係わっていない社員も総出になる。
ずっと知恵を貸してくれていた中津さんは、私がモデルとして舞台に上がる間の裏方をこなしてくれることになっていた。
舞台チェックをして裏に戻ってくると、中津さんが深刻そうな顔をして駆け寄ってきた。
「西里さん、ちょっと……」
私の手を引く中津さんを不思議に思いながらついていくと、用意してあった制服のひとつが、出されていて……。
「これっ!」
「さっき確認に来たら、これだけ破れてて……」
それは、私が着るはずだった赤いジャケットだった。
しかも、破れ方が……不自然だ。
誰かがひっかけて破いてしまったというようには見えない。
これはどうしたって、刃物で切られたあと。