上司に秘密を握られちゃいました。
寝室に金魚鉢を置くと、彼女は子供の様に目を輝かせてしばらく眺めている。


「藍華、ちょっと帯解いて?」

「はい」


もちろん自分で解けるけど……。
こういうスキンシップもいいだろう。

背を向けると、藍華は俺の帯に手をかけながら、口を開いた。


「公孝さん。連れてってくれて、ありがとう」

「いや、俺もすごく楽しかったよ」


なにより、彼女と同じ願い事ができたことが、満足だった。

やがて帯がほどけて、浴衣を脱ごうとすると、背中に彼女の額が触れた。


「どうした?」


そのまま動かない彼女を不思議に思って振り向くと、今度は腕の中に飛び込んでくる。
こんなこと、初めてだった。


「公孝さん。浴衣の脱ぎ方、教えてください」


か細い彼女の声は、それでも俺の耳まで届いて……。



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