上司に秘密を握られちゃいました。
「真山さんこそ……あの、ご結婚は?」
チラッと左手を見たけれど、指輪はしてない。
「もう三十六になるのに、結婚どころか彼女もいないよ」
「そうなんですか!?」
真山さんに彼女がいないことの方が驚きだ。
とても紳士的だし、話しやすいし……見た目だって申し分ないのに。
それに……三十六歳には見えない。
落ち着いた雰囲気は年相応だけど。
「仕事バカだったからね。デパートの仕事を覚えるだけで、いっぱいいっぱい」
そうは見えない。
常に売り場を回って改善点を探しだし、いち派遣社員のすることにまで目を向けてくれる彼は、とても余裕があるように見える。
それから、真山さんが紳士服担当だった時代の興味深い話に、しばらく耳を傾けた。
そして……。
「真山さんはどうして東郷に?」
真山さんのことをもっと知りたいという欲求が、勝手に飛び出してくる。