上司に秘密を握られちゃいました。

「もしもし」

『西里さん。あーよかった。つながって』


第一声はそんな安堵の声。


『帰りに捕まえようと思ったんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったから』

「……すみません」


握手ひとつで舞い上がって、恥ずかしくなってしまった私は、ダッシュで会社を出た。


『いや、実は渡したいものがあって』

「渡したいもの、ですか?」


なんだろう。心当たりがない。


『今、マンションの下にいるんだ』

「えっ!」


驚いて二階の窓から顔を出すと、スマホを耳に当てた真山さんがたしかに見える。


『ちょっと、いいかな』

「は、はい」


慌てて部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。


「西里さん、家まで押しかけてごめんね」

「いえ。どうしたんですか?」


真山さんのたくましい手が視界に入り、伏し目がちになってしまう。
< 96 / 439 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop