上司に秘密を握られちゃいました。
「もしもし」
『西里さん。あーよかった。つながって』
第一声はそんな安堵の声。
『帰りに捕まえようと思ったんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったから』
「……すみません」
握手ひとつで舞い上がって、恥ずかしくなってしまった私は、ダッシュで会社を出た。
『いや、実は渡したいものがあって』
「渡したいもの、ですか?」
なんだろう。心当たりがない。
『今、マンションの下にいるんだ』
「えっ!」
驚いて二階の窓から顔を出すと、スマホを耳に当てた真山さんがたしかに見える。
『ちょっと、いいかな』
「は、はい」
慌てて部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。
「西里さん、家まで押しかけてごめんね」
「いえ。どうしたんですか?」
真山さんのたくましい手が視界に入り、伏し目がちになってしまう。