だめだ、これが恋というのなら
『麻里ちゃん、私…』
『芽衣はまだ来たばっかでしょ?
もっと楽しくみんなでお酒飲んでさ、パーっとやろうよ』
もう完全に酔ってる麻里に同調して他の女も“そうだそうだ”と言い張り、彼女は無理にでもこの家から出ていくことは不可能だと悟ったらしい。
そして麻里のご提案の王様ゲームが始まった。
最初は可愛らしいお題だった。
“大学生活の中で一番恥ずかしかったこと”とか“実はこんな裏を経験しました”とか、暴露系の内容ばっかだったから。
でも、みんな、この王様ゲームの雰囲気を掴んできたらしい。
そして、やっぱり酒の力なんだと思う。
『はい、次ー』
みんなが割り箸を一本ずつ引く。
『王様誰ー?』
麻里の言葉に、
『あ、あたしだ…』
麻里は割り箸の先に書かれた“王様”という文字をみんなに見せながら、そう言った。
『じゃー…
一番と五番がキス、お願いします』
麻里のお題にみんながはやし立てる。
まぁ…中学生のガキとは違うし、キスの一つや二つ、みんな経験してんだろうし。
それにキスくらいなら、比較的、みんなも受け入れやすいんだろう。
『俺、五番』
浩二がハイテンション気味に手を挙げた。
『あれ、一番はー?』
王様の麻里が問いかける、みんなは隣の奴の割り箸の先を確認し合う。
『って、芽衣じゃん』
そう言って、彼女の割り箸の先を奪い取り、みんなに見えるように数字側を上にして上げた。
『はい、じゃー芽衣と浩二くん、どーぞ』
麻里の掛け声に、
『じゃ…』
浩二はそう言って、自分の顔を彼女の顔に近づける。
彼女は何が何だか分からないのか、ただ、泣きそうな顔で、悔しそうな顔で、
『………え…?』
その後は俺にも分からなかった。
俺は浩二の肩を掴み、そして浩二の代わりに彼女の唇に自分の唇を当てていた。
彼女の戸惑いなのか、驚きなのか、どちらとも分からない、“え”の言葉を聞きながら、俺は静かに目を閉じた。