だめだ、これが恋というのなら
『……ほら……』
彼女はそう言って、俯く。
『司、お前なー』
浩二は呆れ顔になる。
何、この図?
『芽衣、とりあえず、さっき、こいつが言ったことは気にすんな』
でも、彼女は顔を上げることも、何かを口にすることもなかった。
“大城駅~、大城駅~”
車掌の言葉に、大学の最寄りの駅に到着した。
『昨日のは犬としたと思って忘れますから』
彼女はそう言って、電車を一人で降り、階段を駆け上がっていた。
その後ろ姿を見て、浩二は呟く。
『あのなー、女ってのはあんな風になった後ってのはフォローが必要なんだよ』
浩二は俺に溜息を吐き、そして電車を降りる。
『フォローなんてする必要、ないっしょ?』
俺が階段を登ろうと一段目に足を落としたとき、最後の階段のところで壁にもたれかかる彼女の後ろ姿が見えた。
『………』
気付いてはいたけど、俺は浩二に何も言わなかった。
浩二は遅れながら、彼女のその姿に気付いて、早々と階段を駆け上がっていく。
『…芽衣?』
浩二の優しい言葉に、アイツは振り返る。
またたくさんの涙を流して。
俺はその姿に驚く。
でも俺はそのまま階段を上る。
最後の一段を登りきって、そのまま改札口まで行こうとしたとき、
『…なんで…』
そう彼女の声が聞こえた気がした。
でも、振り返らなかった。
『…あんたなんて…だいっきらい!!』
彼女はそう言って、わざと俺にぶつかり、そして追い越していく。
彼女の“だいっきらい”の一言が俺の脳内に何度も繰り返される。
“最低”とか“嫌い”とか何回も言われた。
俺の適当さで傷つけ、そして泣かれたこともある。
いつもうっとおしいって。
そんなこと言うんなら、
そんなことになるんなら、
俺みたいな奴を好き、とか言うなよ。
そう、いつも思ってた。
自分の気持ちばかり、押し付けてくんなよって。
けど。
けどさ。
俺のこと、一度だって追いかけてもくれない、一度だって目も合わせてくれない、そんなお前になんでそこまで言われなきゃいけない?
なんの資格があって、なんの権利があって、そんなこと言うんだよ?
だったら、一回でもいいから、
俺を追いかけてみろよ。
たったの一回でもいいから、お前から俺を見ろよ。
俺は、言われたままが嫌なのか、心の中の今の言葉たちをぶつけたかったのか、よく分からなかったけど、気づいたら走り出してた。