だめだ、これが恋というのなら
第一章
恋はしない
『司』
背後から呼ばれ、振り返った先には経済学部のクイーン、大島 雪奈が俺に手を振っている。
俺は興味のない女に手を振ることもせずに、そのまま体を戻し、進もうとしていた方角へと歩みを進める。
『司ってばー』
当たり前のように、俺の腕に自分の腕を絡ませ、俺の腕に頭を擦り付けてくる。
『何?』
俺が冷たく言い放つと、雪奈は俺の腕を引っ張り、
『冷たくしても無駄だよ、司?』
そう言って、背伸びをし、俺にキスをする。
『やめてくれる?』
経済学部のクイーンにキスされた、なんて経済学部の野郎共には反感を買うかもしれないけど、俺は別に嬉しくもない。
『この間の司、すっごく良かったよ?
今日の夜も司の部屋、行ってもいい?』
甘ったるしい声で誘われても、なんとも思わない。
『来ないでくれる?』
俺がそう言うと、唇を尖らせ、俺の腕をブンブンと振る。
『なんか勘違いしてる?
俺、お前のこと好きでヤった訳じゃないから』
俺はそれだけ言い放ち、一人もくもくと歩いていく。
『7時に行くからねー!』
背後ではそんな声がしてるけど、俺の知ったこっちゃない。
雪奈から解放され、一人講義室まで歩いていると、悪友の浩二がやってきた。
『お前、経済学部のクイーン、雪奈も落としたわけ?』
浩二はお決まりのタバコを吸い、話しかけてくる。
『どうでもいい、ただ暇だったから相手してもらっただけ』
俺がそう言うと、浩二は、
『なんでこういう男がモテんのかね』
そう俺に問いかけてきた。
『知らね、女は結局顔、なんじゃね?』
俺はお決まりの言葉を口にする。
そう、女は結局顔、それさえよければみんな寄ってくる。
『出た、お決まりの言葉、そういうの口に出来るお前は本当にすごいよ』
浩二、なんもすごくねぇよ?
『…あ…』
自然と俺の足が止まる、それに合わせて浩二の足も止まる。
『司、どった?』
俺は答えない、代わりに視線を対象の人物に向けた。
『…?』
浩二は俺の視線の先にいる何人かの女のグループを見るも、俺の視線が向けられている、特定の女には気付いていない。