だめだ、これが恋というのなら
集合場所には浩二、麻里、そしてどう説得したのかあの女が立っていた。
『司ーおはよ♪』
麻里は語尾までルンルンで俺に声をかける。
『休みの日まで司に会えるなんて得しちゃったなぁ』
麻里は相変わらず可愛らしいことを口にする。
でも、その横のあの女はぶすっとした顔をしてるだけ。
この違いは一体なんなんだろう…
あ、麻里は俺に好意があって、あの女は俺に敵意を持ってるからか…
『じゃ、お邪魔しまーす』
麻里はそう言って、後部座席に乗り込む。
『はい、芽衣も』
浩二に押され、あの女も麻里の隣に座った。
『司、ごめんな~』
浩二は悪気も感じられない様子で、そう言って、助手席に座った。
『ほんとだよ…こんな朝早くから運転とか、マジありえない…』
『え、だって車持ってんの司だけじゃん』
『電車でいけよ』
『帰りとか、女の子のことは送っていかなきゃダメじゃん』
『紳士気取りなら、お前がレンタカーでも借りればいいだろう』
俺の言葉に浩二は“ごめんね~”と形だけの謝罪をする。
『二人って仲いいのか悪いのか分からなーい』
麻里は後部座席から俺たちの会話に入ってくる。
俺はチラッとミラー越しに後ろの席を見る。
正確に言えば、後ろの席のあの女。
俺たちの会話には入りません、そう言ってるのかとツッコミをいれたくなるくらい、彼女は窓から見える景色を眺めているだけだった。
目的地に着くまで、車内の会話は終始俺たち3人だけだった。
駐車場に無事に着くと、みんなは外に出て、背伸びをする。
俺も背伸びをすると、浩二がにこやかな顔を見せながら、俺に缶コーヒーを差し出した。
『お、サンキュー』
俺は喜んで缶コーヒーを受け取り、一気に飲む。
起きてから水分といってもいい水分はとってなかったし、車内は話してばっかだったし、もう喉はからからだった。
その様子を見て、浩二はにやっと笑った。
『お礼なら、芽衣に言うんだな』
浩二の言葉に俺は、“え”と漏らす。
『駐車場に着いてすぐ、そこの自販機で買ったんだよ、芽衣が』
俺は手にしている缶コーヒーを見つめる。
『想われてんのな、お前』
浩二の言葉に、俺は彼女を見つめる。
『…違うだろ、だって、すげー嫌われてるみたいだし、俺…』
視線の先では彼女と麻里が笑い合ってる。
俺に見せる、あの不自然な笑顔ではなく、本当に心からの笑顔。
『嫌われてたら、こんなこと誰もしないだろ?』
嫌われてたら、こんなことしない…
じゃ、なんだって言うんだよ。
この缶コーヒーの意味はなんなんだよ…。
あの時、俺のことが嫌いなら、そう言った時、アイツは笑ったんだ。
なのに、違うっていうのかよ…?