だめだ、これが恋というのなら
麻里は会話を絶やさない。
俺にアイツのことを考えさせないようにするためなのかというくらい、本当に話しかけてくる。
『司、今度はどこ行く?』
俺は疲れて、近くのベンチに腰掛ける。
『司、疲れた?』
麻里は俺の隣に座り、そう問いかけてきた。
『老けたわ~俺。
高校の時とかは歩き回っても騒ぎ続けてもなんでもなかったのにな』
『司、本当にそれだけ?』
麻里が今までに見せたことのない、真面目な顔で問いかけてくる。
『どういう意味?』
俺は麻里に反対に問いかけた。
と、同時に俺の携帯が鳴り響く。
『ごめん』
俺は麻里にそう言って、通話ボタンを押す。
『お前ら、どこー?』
電話の相手は浩二、俺たちの微妙な空気をぶち壊すかのように明るく、そう尋ねてきた。
『あ、今宇宙船のやつを乗ってきたとこ』
『あーあれ、待ち時間長かったもんな』
『浩二は?』
『俺たちは今、ショーを見ようと思って移動してるとこ、お前たちも一緒に見ないか?』
浩二の誘いに、俺は“行く”、そう答えた。
麻里に相談もしていない、たった一人で、そう浩二に返事をした。
『じゃ、ファンシーランドで落ち合おうぜ』
浩二はそれだけ言って、通話を切った。
『浩二くん?』
麻里は電話の雰囲気から、そう問いかけてきた。
『あぁ、ショーを一緒に見ないかって誘われて、だから移動しよ』
そう言って俺はベンチから立ち上がり、そして歩き出す。
『司、一つ聞いてもいい?』
麻里はまたあの真面目な顔に戻り、そう問いかけてきた。
麻里のその目に、俺は立ち止まり、麻里の言葉を待った。
『司、今、好きな人、いる?』
麻里のその言葉に俺は言葉を失う。
『…いるよね?』
何かを突き止めた探偵のように、麻里は問いかけてくる。
『いるって言ったら?』
『…誰?』
俺の問いかけに麻里も問いかけてくる。
『麻里、知ってるでしょ?
俺がそういう特定の奴を作らない主義だってこと』
俺は笑って、そう言い放った。
でも、麻里は笑い返さなかった。