だめだ、これが恋というのなら
『浩二くんは人の気持ちに敏感なんだね』
私がそう答えると浩二くんは静かに笑った。
『…司のことだから、かな』
『え…?』
『アイツさ、昔、母親に言われたんだって。
自分と同じような思いをする女を作らないためにも、恋はするなって』
……え……。
『…お母さんに…?』
『アイツの家、アイツがまだ小学生の頃に、親父さんの浮気が原因で離婚してるんだよ。
アイツは親父さん似でさ?一年ごとに親父さんに似てくるアイツに母親が言った言葉、だからアイツはそのことを忠実に守ってるんだと思う』
『…そ…う…だったんだ…』
だから、本命の彼女がいたことがないの?
だから、いつも遊びの人しか作らなかったの?
本人に聞かなければ分からないことだけど、でも…そんなことをお母さんに言われたとき、彼はどう思ったんだろう…?
どうその言葉を解釈して、どんな気持ちでその言葉通りに生きてきたんだろう…。
『だから、この間のキスは驚いたっていうか…
司が自分からあんなことしたの初めてだったから、うん、俺自身驚いてる』
浩二くんはそう言った。
『…そう、なんだ…。
でも、私のこと、嫌いだったからしたんだよ、きっと』
きっと、そう。
だから、その後も、あんな無理矢理なキスを何度もしてきた…
彼にとっては、私とのキスなんて、他の子にせがまれてするのとなんら変わらないことで、きっとなんとも思わないキスで…
だから…
私はいつの間にか、人前なのに、涙が溢れていた。
『…ごめん…』
こんなに、楽しいところなのに、沢山人がいるのに。
それなのに、浩二くんの前で泣いてしまって、ごめんなさい…
でも、この涙を止めることができない…
『…芽衣…』
浩二くんは私の肩に手を置き、困ってるはずなのに、優しい目で私の名前を呼んだ。
『…ごめんなさい…ごめんなさい……』
『芽衣、泣きたい時は泣きな?
無理することじゃないから』
浩二くんの優しい、その言葉が、私の涙腺をもっと弱くする。
もう涙なんて止まってほしいのに。
それでも、浩二くんの顔が、アイツの顔に重なる。
こんな時まで、私は彼のことを想ってしまう…重ねてしまう……
どうしようもないくらい、
自分じゃ止めようのないくらい、
私が彼が好きで、好きで、どうしようもない。
~♪~♪~♪~
『メールだ…』
浩二くんの携帯にメールが届き、浩二くんは携帯を確認する。
『あのバカ…』
浩二くんの顔が怖いものに変わって、
きっと“あのバカ”のバカはアイツのことで。
『…ごめん、アイツ、ショーには来れないみたい』
浩二くんはそう言って、溜息を吐いた。
『…麻里と楽しんでるんだよ…仕方ないんだよ…』
一生懸命、そう自分に言い聞かせた。
これ以上、浩二くんにどうしようもない私を見せたくなかったから…