だめだ、これが恋というのなら



『…ごめん…』



『…ごめん…』




目的違いのその部屋で俺は何度も、そう謝った。





『司…今、誰のこと、考えてる…?』


麻里は優しく、そう問いかけてきた。




『…誰って……誰も考えてない……』



『司、いいことを教えてあげる』


麻里は起き上がり、そして俺を抱きしめた。



『司…そういうのを“恋”って言うんだよ?』


耳元で囁かれた、思いがけない言葉。




『…恋……?』




『そうだよ?
 恋をするとね、その人のことを考えちゃうんだよ?』



…考える…?




『恋をすると、目が勝手にその人を追いかけちゃう。
 耳がその人の声を聞きたいと、手がその人に触れたいと思うものなんだよ?』




『司は今、誰のことを追いかけてる…?』


『司は今、誰の声が聞きたい…?』


『司は今、誰に触れたい…?』





麻里の言葉が俺のがんじがらめになった、訳の分からない気持ちを溶かしていく。



『もっと素直になって?
 もっと自分の気持ちに正直になって…?』




素直に…

正直に…




その時、アイツの“最低”と叫んだ顔が浮かんだ。




アイツの“だいっきらい”、そう泣いて叫んだ、あの時の顔が思い浮かんだ。




< 36 / 52 >

この作品をシェア

pagetop