だめだ、これが恋というのなら
『…ごめん…』
『…ごめん…』
目的違いのその部屋で俺は何度も、そう謝った。
『司…今、誰のこと、考えてる…?』
麻里は優しく、そう問いかけてきた。
『…誰って……誰も考えてない……』
『司、いいことを教えてあげる』
麻里は起き上がり、そして俺を抱きしめた。
『司…そういうのを“恋”って言うんだよ?』
耳元で囁かれた、思いがけない言葉。
『…恋……?』
『そうだよ?
恋をするとね、その人のことを考えちゃうんだよ?』
…考える…?
『恋をすると、目が勝手にその人を追いかけちゃう。
耳がその人の声を聞きたいと、手がその人に触れたいと思うものなんだよ?』
『司は今、誰のことを追いかけてる…?』
『司は今、誰の声が聞きたい…?』
『司は今、誰に触れたい…?』
麻里の言葉が俺のがんじがらめになった、訳の分からない気持ちを溶かしていく。
『もっと素直になって?
もっと自分の気持ちに正直になって…?』
素直に…
正直に…
その時、アイツの“最低”と叫んだ顔が浮かんだ。
アイツの“だいっきらい”、そう泣いて叫んだ、あの時の顔が思い浮かんだ。