だめだ、これが恋というのなら
彼女の手を引いて、俺は走る。
さっきも彼女を探して、この園内を走り回ったのに。
それでも、この足は止めれない…。
止めたら最後、彼女は浩二の元に戻ってしまいそうな気がして。
『…あ…あの…!』
彼女は何度も俺に声をかけるけど、俺は振り向きもしないで、ただ彼女の手を引いて走った。
どのくらい走っただろうか…
ふと目に入った絶叫系のアトラクション。
ちょうど一日一回の、この遊園地の目玉のショーということもあって、みんながショーを見に行ってるらしい。
混んでるはずのそのアトラクションも空いていて、すぐに乗れそうな感じだった。
俺は迷いなく、そのアトラクションの入口に入った。
アトラクションに乗るところまで来て、何人かが待っていて、そこで俺たち走るのをやめて止まった。
『あ…あの…』
彼女がそう俺に話しかけたとき、アトラクションを運行してる係員さんに“どうぞ”と言われ、そのまま俺は彼女の手を引いて乗った。
彼女は訳の分からないうちに乗らされ、動揺していたけど、そんな彼女の気持ちなんてお構いなしにアトラクションはスタートした。
最初は軽く落ちるくらいで、周りも可愛く装飾され、俺たちは何も話さず、ただ乗っていた。
最初に沈黙を破ったのは彼女。
『…どういうこと…?』
『…何が?』
俺の問いかけに、彼女は困った顔をする。
『だから、どうして……その…』
『…芽衣と二人になりたかったから』
俺の返事に彼女は怪訝そうな顔に変わる。
『麻里とホテルに行ったくせに…』
『え、なんで知ってんの?』
『浩二くんの携帯、たまたま見えちゃって、それで…』
浩二のバカ野郎…
でも、あの場所に行って良かったんだと思う。
あの場所に行って、麻里に大切なことを気付かされた。
『…でも、最後まではしなかったよ、俺』
俺がそう答えると、彼女は俺の顔を見つめる。
『…じゃぁ…キスは…?』
彼女は小さな声で、そう問いかけてくる。
『……それは……』
俺が困った顔をすると、彼女は“汚い”と言った。
『この間から聞きたかったんだけどさ…
その汚いって、どういう意味?』
彼女は俺の言葉に俯いた。
『……本当に好きな人とのキスはいいけど…
そうじゃない人との意味ってなんなの…?』