だめだ、これが恋というのなら


彼女の手を引いて、俺は走る。


さっきも彼女を探して、この園内を走り回ったのに。



それでも、この足は止めれない…。



止めたら最後、彼女は浩二の元に戻ってしまいそうな気がして。





『…あ…あの…!』


彼女は何度も俺に声をかけるけど、俺は振り向きもしないで、ただ彼女の手を引いて走った。




どのくらい走っただろうか…



ふと目に入った絶叫系のアトラクション。


ちょうど一日一回の、この遊園地の目玉のショーということもあって、みんながショーを見に行ってるらしい。

混んでるはずのそのアトラクションも空いていて、すぐに乗れそうな感じだった。


俺は迷いなく、そのアトラクションの入口に入った。


アトラクションに乗るところまで来て、何人かが待っていて、そこで俺たち走るのをやめて止まった。




『あ…あの…』


彼女がそう俺に話しかけたとき、アトラクションを運行してる係員さんに“どうぞ”と言われ、そのまま俺は彼女の手を引いて乗った。


彼女は訳の分からないうちに乗らされ、動揺していたけど、そんな彼女の気持ちなんてお構いなしにアトラクションはスタートした。



最初は軽く落ちるくらいで、周りも可愛く装飾され、俺たちは何も話さず、ただ乗っていた。



最初に沈黙を破ったのは彼女。



『…どういうこと…?』


『…何が?』


俺の問いかけに、彼女は困った顔をする。



『だから、どうして……その…』


『…芽衣と二人になりたかったから』


俺の返事に彼女は怪訝そうな顔に変わる。



『麻里とホテルに行ったくせに…』


『え、なんで知ってんの?』


『浩二くんの携帯、たまたま見えちゃって、それで…』



浩二のバカ野郎…


でも、あの場所に行って良かったんだと思う。

あの場所に行って、麻里に大切なことを気付かされた。




『…でも、最後まではしなかったよ、俺』


俺がそう答えると、彼女は俺の顔を見つめる。



『…じゃぁ…キスは…?』



彼女は小さな声で、そう問いかけてくる。




『……それは……』


俺が困った顔をすると、彼女は“汚い”と言った。



『この間から聞きたかったんだけどさ…
 その汚いって、どういう意味?』


彼女は俺の言葉に俯いた。



『……本当に好きな人とのキスはいいけど…
 そうじゃない人との意味ってなんなの…?』



< 41 / 52 >

この作品をシェア

pagetop