だめだ、これが恋というのなら
『なぁ…キスしてからでなんなんだけどさ、
芽衣は俺のことどう思ってるの?』
唇と唇が離れたばかりで、まだお互いの顔が近い、その状況で俺は彼女に問いかける。
彼女は俺の問いかけに、顔の近さに気づき、おもむろに顔を背けた。
『………内緒…』
聞き取るのがやっとの声で、彼女はそう言った。
『芽衣、ずるくない?
でも、俺のキスを受け入れたんだから、そういうことだよな?』
俺はちょっと意地悪に聞いてみた。
『……内緒だってば…』
みるみる顔が真っ赤になっていく彼女。
その姿が、その顔が可愛い。
俺がこんな風に女を見れるなんて…俺自身も驚きだ。
『芽衣が言わないなら、俺ももう芽衣には言わない』
俺の言葉に芽衣は真っ赤な顔で俺を見つめる。
『…そっちこそ…ずるいよ……。
……キスしたり…好きって言ってくれたり……
なんで、こんなに私をドキドキさせるの…?』
芽衣、“好き”って二文字をいうよりも、その言葉たちのほうが言うの恥ずかしくない?
そう…俺は心の中で問いかけてみたけど、
『だって、芽衣の心の中には俺だけにしてほしいから』
俺は真顔で芽衣にそう呟いてみた。
『…私の中には……』
そこまで言ったところで彼女は言葉をやめる。
の、代わりに、辺りをキョロキョロと見回す。
『芽衣?』
『…え……待って、これどういうこと?』
彼女はボートが上に上がってることに気がつき、その後どうなるのかを俺に問いかけているみたいだった。
『頂上まで登ったら、あとは落ちるんでしょ?』
俺があっけらかんとした顔で言ったからなのか、隣の彼女は“いやー”と騒ぎ始めた。
『え、今からが最大のお楽しみじゃん…』
そこまで言って気がつく、芽衣、絶叫系苦手だったんだ…そういえば…。
案の定、隣の彼女は“降りる”と叫び、その目には恐怖からくるのか涙でいっぱいだった。
『ほら』
俺は前の手すりに必死に掴んでいる片方の手を離し、俺の片手と繋がせた。
『怖くない?』
俺はできるだけ優しい顔をして、そう言った。
できるだけ彼女の不安や恐怖を取り除いてあげたかったから。
『……離さないでね…?』
恐怖に怯えた顔をしながら、彼女はそう言った。
『これだけしっかり繋いでれば離れないでしょ?』
俺が笑いながら答えると、彼女は、
『…手…じゃなくて…』
そう可愛らしいことを口にした。
『あ、芽衣、頂上だ、見て!』
てっぺんまできたからこそ見える夜景。
ちょうどパレードの最中で、色とりどりのライトが眩しく光っていて、その景色に吸い込まれそうになるほど美して、隣には一番大切な人がいて、本当に、本当に俺は幸せだと思った。
『いや~~!!!!!!!!!』
すぐに隣の絶叫で感動も台無しだったけど。
周りの客も叫び、隣の叫びが一番うるさく、だから俺も負けじと、
『芽~衣~!好きだ~~!!!!!』
そう叫んだ。
滝壺に落ちて、水を少々浴び、俺は隣を見た。
『…死んじゃうんじゃないかってくらい…怖かった……』
第一声の感想、そこかよ!!
そう思わず心の中で突っ込んだけど。
『でも、誰かさんの“好き”を聞けたから、乗って良かった』
彼女は少し水に濡れた前髪をいじりながら、そう笑って言ってくれた。
『…初めてだ…』
俺の言葉に彼女は首を傾げた。
『初めて、俺に笑った』
俺が言うと、彼女は、
『幸せだから』
そう、短く、でも俺の心を温かくする、その一言をくれた。