だめだ、これが恋というのなら
最終章
共に歩いていく side芽衣
あれから一ヶ月。
彼は、私のすぐ隣にいる。
駅で待ち合わせて、大学まで手を繋いで、一緒に講義を受けて、隣でご飯を食べて、本当に本当に幸せな一ヶ月だった。
まさか彼から“好き”って言ってもらえるなんて全然思ってもなかったから、彼からのあの日の“好き”という言葉は私の宝物。
でも、時間は待ったなしで、あと三日で私たちは卒業する。
大学を卒業したら、私は都内に就職、彼は地元に残って先輩からのお誘いでバーで働くことになってる。
もう、二人でこんな風にゆっくりと幸せを噛み締めてる、そんな猶予はもう…
私は最近、ずっとこんなことばっかり考えてる。
『…芽衣?』
彼が不意に声をかける。
『…え…?』
すっかり自分の世界に入り浸って考え事をしてたから、彼の話をきちんと聞いていなかった。
『芽衣、聞いてた?』
彼は怪訝そうな顔をしながら、私の目を覗き込んでる。
『……ごめんなさい…』
彼の視線に勝てる自信なんてない。
私はすぐに彼に謝罪をした。
『芽衣なんか不安なことでもあるの?』
彼は意図も簡単に私のことを見抜いてくる。
『………』
『一人で不安を抱えてないで、なんかあるんなら話してよ?』
彼のその優しい言葉に、本当は話したい。
でも、離れ離れになって、その後の二人が心配とか…言えない。
そんなことで悩んでるなんて、重い女とか思われたくないし…
『……はぁー…』
なかなか答えない私に彼は深い溜息をつく。
呆れてる?
もう、嫌いになった?
彼の言葉で、彼の行動で、こんなにも怖くて、不安になる。
『芽衣、俺たちさ』
……え……?
“別れる”
その三文字が脳裏を過ぎる。
『………れたくない……』
私は彼の続きの言葉をいう前にそう言った。
そんな私の言葉に、彼は驚いた顔を見せる。
『…別れたくない…』
彼の袖を強く引っ張りながら、頑張ってそう言葉にする。
『…へ?』
彼はそんな声を出して、そしてプッと吹き出した。
…え…?
『芽衣、何言ってんの?
俺はただ、旅行に行かない、って誘おうと思ったんだけど?
芽衣、俺と別れたいの?』
彼は普通の声で、顔色一つ変えないで、そう言った。
『…旅行…?』
私が聞き返すと、彼は私の手を繋いで、優しく微笑んだ。
『卒業したらお互いに忙しくなるでしょ?
なかなか時間合わなくなると思うし、その前に二人の想い出を作れればいいなと思っだんだけど』
彼は優しい。
彼の言葉は優しい。
だから、好き。
どうしようもないくらい…
この人を失ったら、私はきっと死んじゃう…
大好き…
『…行きたい』
私は泣きながら、そう答えた。