だめだ、これが恋というのなら


さすがだるそうに歩く教授の講義。

大半がみな眠っていた。


俺も隣で気持ちよさそうに寝ている浩二の寝顔を見て、大きな欠伸をする。


俺も寝ようかな…


そう思って、机に顔を突っ伏す、その瞬間に足元に何かが転がり、ぶつかったような感覚を感じた。


ん?

俺は突っ伏そうとした体を起こし、足元に向けた。


するとそこには可愛らしい消しゴムが落ちていた。


今時こんな可愛らしい消しゴムを使う奴なんているんだな。


俺はその消しゴムに手を伸ばそうとした。



でも、


突然後ろの席が勢いよく引かれる音が聞こえ、振り返ると、後ろの席のあの女が立ち上がっていた。



『立花、どうした?』


教授に声をかけられ、


『すみません…消しゴムを落としてしまって』

彼女がそう答えると、


『今度はもう少し静かに取りなさい』


そう言われ、起きてる奴らの笑いの的になった。


『…すみません』

彼女はそう言うなり、かがんで消しゴムを探して、辺りをキョロキョロ見渡す。



俺はもう一度体を丸め、足元の消しゴムに手を伸ばした。


そして、拾った消しゴムを後ろのテーブルに静かに置いた。



でも、まさか俺がそんなことしてると思ってなかったのか、彼女はまだ床を探してる。



『もう戻したけど』


俺がそう言うと、彼女は顔を上げた。


初めてこんなに近くで彼女の顔をマジマジと見た気がする。


ぱっつんの前髪が少し目元にかかり、二重のぱっちりの目。

その目がとても印象的だった。

その目に吸い込まれていきそうな…初めて女と目を合わせてそう思った。

鼻は少し高めで、唇はリップのおかげなのか十分に潤っていて、とても綺麗な顔をしている子だと思った。



『………』


彼女は無言でテーブルを確認し、そして俺にお辞儀をして、自分の席に戻った。




へ?


それだけ?


俺を取り巻く女たちだったら、絶対に可愛らしく、“司、ありがとう”とか言うよ?



なんなん、この女…


ちょっと顔立ち綺麗だったら、消しゴムを取ってもらっても礼なしでいいってか?


少しだけ、後ろの席の女にむっとした。



『あれ、司どうした?』


まだ眠いのか、浩二は目を擦りながら、俺に問いかける。


『別に』


俺がそう答えると、浩二は大きな欠伸をして、


『けど、その貧乏ゆすりが俺の方まで響いてくんだよな…』


そう言った。



浩二に言われて初めて気付く、俺が貧乏ゆすりなんかしてることに。




『司?』



浩二に声をかけられるも、俺は顔を突っ伏して寝たふりをした。



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