人魚姫の願い
 私にはさほど時間はない。次の満月までに、目当てのものを手に入れなければ、それ以降には厳しい状況が待っている。海の底に住む魔女との契約で、私の目的が達せられなかったとしても、私は彼女に声を捧げなければならない。
 
 
 声などいくらでもくれてやると思った。私にはそれ以上に欲しいものがあるのだから……。
 
  
 だが、声を失っては、目当てのものを手にできる可能性は限りなく無に近くなる。私に猶予があるのは、ただ単に魔女の好意だ。その思いを踏みにじるわけにはいかない。必ず手に入れなければ。
 
 
 私に布を着せたオスは、人間たちには「王子」と呼ばれていた。国を創り、治める人間の王の息子。やがてあとを継いで王となる人間。そんな意味があるらしい。
 
 
 王子は私を連れて帰った自らの城に住まわせた。拠点となる場所が欲しかった私には好都合だったが、わずらわしいことに、王子は何かにつけて私の部屋を訪れては、くだらない話を長々としていくのだ。私がつまらなそうな顔をしていると、決まって王子は私に近付き、触れた。肌に唇を当て、指で撫で回す。この行為に何の意味があるのやら……。
 
 
 あるとき、戯れに、私がされた同じことを王子にもしてやると、王子は顔を真っ赤にして私を抱きしめた。
 
 
「ああ、愛しい人よ。愛している、心から」
 
 
 王子は何度も同じことを私に囁いた。私は意味がわからなかった。
 
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