人魚姫の願い
 ある夜、私は窓から空を眺めていた。月はだんだんその身を細くしていく。確か今の姿は下弦の月と呼ぶのではないだろうか。新月が近いということだ。更には次の満月までの時間も、もう……。
 
 
 ふと物音がして、振り返ると、王子が私の部屋に入ってきたところだった。
 
 
「眠れないのかい?」
 
 
 相変わらず甘ったるい声で話しかける王子に、私は否定するのも面倒くさくてただ頷いた。そんな私に王子は遠慮もなく近づき、頭を引き寄せて抱いた。
 
 
「君に出会って僕は毎日が輝いて見える。どうか僕の妃になってくれないだろうか?」
 
 
 キサキ……? 確か王族のつがいになることをそう言うのではなかったか。私たちは出会ってまだ間もない。十日も経たないのではないだろうか。そんな短期間で生涯の伴侶を決めてしまって後悔しないのだろうか。更には、私などは王子にとっては身元知らずの怪しい女ではないのか。
 
 
 私はにこにこと笑うだけで返事はしなかった。断ることもできる。しかし、この件は私の目的のための切り札になる、そんな予感がしてならなかったからだ。
 
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