人魚姫の願い
「驚いたよ。君はあの人魚を欲しかったんじゃないのかい? 逃がしてしまうなんて」
 
 
 寝床の中で王子が言った。求婚を受けたのだからと、王子は私と一緒に眠ることを求めた。まあ、一晩くらい良いだろう。私は明日には海に帰るのだから。
 
 
「つまずいて転んだんです。その拍子にあの箱が倒れたんですよ」
 
 
 うそぶく私をそっと抱き寄せて、王子は離そうとしない。
 
 
「まあ、それでも君の願いは叶えた。結婚してくれるんだよね?」
 
 
 私は微笑むだけだった。胸の奥に秘めたものなど、見せるつもりは毛頭なかった。
 
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