夏服を収める頃には
健は淳に敬礼をすると駅へ走った。

万引き犯人が警備員と目が合った時
よりも早く走っていた。

ただただ、うれしかったからである。

「やったー」

(淳ちゃんと付き合える!

俺に彼女が出来た。

かわいくて優しい彼女が出来た。

これから毎週デートをしよう。

そしたら、そう、そしたら、そのうち
淳ちゃんと手を
繋ぐ時がくるかもしれない)

「あっ・・・」

健はここで亜子の左手を思い出して
しまった。

小さく柔らかい亜子の手。

亜子の部屋で見た亜子の姿も。

そしてまた木曜日に会う約束も。

< 107 / 220 >

この作品をシェア

pagetop