夏服を収める頃には
「あのう、もし、もし明日とか広瀬君
に予定がなければ街中を私が案内する
とかいうのはどうでしょうか?

広瀬君、まだあまり街の様子とか
分からないと思うんで・・・」

「えっ、小田島さんと?」

「あっ、やっぱり嫌ですか?」

「とんでもない!

連れて行ってください!

赤ん坊の泣き声が聞こえる廃校でも

全従業員が
全ての指先に包帯が巻かれている
定食屋でも

苦悩の表情をした医師が
何かを告げると
若い女性が悲鳴を上げて
卒倒して、周囲の人が
抱きかかえてしまう
手術室前でも

おにぎりのおいしかった
遠足でも!」

「・・・」

「ごめん、行きます。

喜んで行きます!」

「じゃあ、明日大丈夫なんですか?」

「勿論大丈夫です。

明日はスペインに行って
トマト祭で使用するトマトの中に
赤く塗った砲丸を混ぜる仕事を
するはずでしたが、それを
キャンセルして
小田島さんと過ごしたい所存です」

「・・・」

明日の時間を確認して電話を切ると
健は両手を上げて叫んだ。

「これはデートのお誘いと
考えてもいいんでしょうかあ!」

淳は携帯を持ったまま暫く
立ち尽くした。

(勇気を出して電話をかけて
良かった。

夏服を収める頃には・・・)




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