あやしやあんどん
 そんなある日、彼女は人通りを少し外れた場所で不思議な喫茶店を見つけた。


『喫茶 あんどん』


 看板にはそう書かれていた。こんなところにこんな店があっただろうか?とサトリは考えたが、気がつくと店の中へと足を進めていた。


「いらっしゃいませ」


 店員らしき青年がサトリに声をかけた。
 気配もなく、急に現れた青年に驚いたサトリは思わず声を上げた。


「すみません。驚かせてしまいましたね」

「あ、いえ・・・」


 見た目はサトリと変わらない歳ぐらいの青年。背は平均的な高さで、物腰柔らかく落ち着いた雰囲気をしている。


「お一人様ですか?」

「はい」


 青年はサトリを席に案内する。
 店内にはサトリ以外に客はいない。店内はレトロな雰囲気だった。木製の椅子とテーブル。テーブルには花瓶に入った赤い花が一輪飾られていた。


「当店は初めてでしょうか?」

「そうです。入るつもりはなかったのに、気づいたら・・・」


 サトリは、どうしてこの店に入ってしまったのかが未だに分からなかった。店員に伝えた通り、気づいたら勝手に店に入っていたのだ。
 そして不思議なことにサトリは、この店に懐かしさを感じていた。妙に落ち着くこの店はサトリにとって、とても居心地が良かった。


「ここへ来るお客様は皆、そういうんです。当店は選ばれたお客様しか入れませんから」

「それはどういう・・・」


 サトリが理由を尋ねようとした瞬間、店の奥から優しげな男の声がした。


「鮫島くん。これを運んでくれるかな?」

「はい。青山さん」


 鮫島と呼ばれた店員は店の奥へと消えていく。そして、彼は何かをサトリのもとへと運んできた。
 まだ何も注文をしていないサトリの前に緑茶と和菓子が置かれた。


「わ、私、まだ何も・・・」

「この店では、店主がお客様に合ったものを出しているんです」

「私に合った?」

「はい。お客様のためだけに作られたものです。どうぞお召し上がりください」


 サトリは和菓子を見つめた。どこかで見たことのあるような桜色をした小さな花の形をした和菓子。
 一口、サトリは和菓子を食べる。
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