あやしやあんどん

「美味しい・・・」


　自分好みの味。そして、懐かしく思う味。
　サトリは目を見開き、その味に驚いていた。自分でも忘れている何かを思い出させるようなその菓子にサトリは驚くしかなかった。


「喜んでいただけて、良かった」


　鮫島が笑う。
　サトリは、一口一口をゆっくりと味わった。遠い昔、置いてきた何かを取り戻すように、ゆっくりと味わっていた。




















　サトリは、夢を見ていた。
　悲しむ誰か。サトリは、それをただ見つめている。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」


　悲しまなくていいと声をかけようとするが、自分の声が出ない。触れようとしても触れられない。
　座り込み、泣きじゃくるその人をサトリは知っているような気がした。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」


　もう、いいのだと、サトリは何度も呟く。
　泣きじゃくるその人が顔を上げたとき、サトリはその顔を見ることなく夢の世界から現実へと戻された。



　目が覚めると、涙が零れた。
　起き上がり、いつものように支度を始めた。少し腫れた目をサトリは眼鏡を掛けて隠した。
　きっと誰も見ていない。誰も自分の変化に気づかないだろうと思った。


「今日も行ってみようかな」


　サトリは独り言を呟いた。
　懐かしく、落ち着いた空間。あの喫茶店へもう一度足を運ぼうと心に決め、サトリは嫌いな学校へと向かった。