君をひたすら傷つけて

ただ、好き

 お兄ちゃんと何度も並んで歩いた通路を通って、マンションの部屋に着いた。そして、お兄ちゃんはポケットから鍵を取り出すと、ドアを開けた。そして、私を見つけた。ドアを開けただけで、入るも入らないも私に決定権を渡す。私は玄関に入ると、靴を脱いで、そのままリビングに向かった。ソファの前に立つとどうしようかと思った。

「雅。座って。何を飲む?」

「何も要らない」

「雅の好きなお茶がある。それでいいか?」

 お兄ちゃんは冷蔵庫の中から、私が好きなお茶のペットボトルを取り出すと、目の前に置いた。私が好きなものは決まったメーカーの紅茶でそれも少し濃いめにいれてあるものだった。しかし、紅茶にはカフェインが入っている。妊娠してから、カフェインの多い飲料は避けるようにしていた。

 この部屋を出て随分時間が経つのに、私の好きな紅茶のペットボトルが出てきたことに驚いた。用意してくれたことは嬉しいけど、躊躇してしまう。

「ごめん。水のペットボトルある?」

「水?」

「うん。水がいいなって」

「何でもいいなら、あるよ」

 そういって、お兄ちゃんは水のペットボトルを私の前に置いてくれた。そして、私の前に座ると、同じ水のペットボトルの蓋を開けると、落ち着かせるかのように、水を飲む。そして、私を見つめた。

「ありがとう。あの……。あの時は」

「いや。まずは俺の話を聞いて欲しい。雅の話はその後にゆっくりと聞くから」

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