君をひたすら傷つけて

一つの思いを胸に

 義哉のお墓参りに行く日、私は仕事が思ったよりも時間が掛かり、慎哉さんとはお墓の前で会うことにした。本当なら事務所で事務だけをするつもりだったけど、急にリズの依頼で衣装をスタジオに届けることになった。

 カメラマンの急な依頼で別な衣装が必要になったからだった。ショップに連絡しておいて、タクシーで向かい、受取、そして、スタジオまで行く。スタジオ内は緊迫した雰囲気に包まれていた。モデルが新人ということもあり、カメラマンが上手く誘導するのにも乗れず、何度も撮りなおしになっていた。

 リズはその度に化粧直しをしたりと忙しそうだった。挙句に顔映りが悪いということで、同じ衣装の色違いを持ってくることになったのだった。

「助かった。雅。ありがとう」

「それはいいけど珍しいわね」

「仕方ないわ。新人で慣れてないのよ。でも、頑張ろうとするから余計に自然さが消えてしまって、ぎこちなくなる。衣装もいくつか変えてみて、気分を変えながら撮影にしようかということになって、雅に頼んだの」

「手伝おうか?リズなら一人でも大丈夫だと思うけど」

「手伝って欲しいのは山々だけど、人が増えるとモデルがもっと緊張するから、大丈夫。最後まで頑張るから。今日は今からお墓参りよね」

「うん」

「気を付けてね」

「ありがとう。リズも頑張って」

 私は少しだけ仕事のことが気になりながら、携帯を見ると既に約束の時間になっていた。最初からお墓の前で会うようにしていて良かったと思った。

< 1,040 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop